おろし器事件|外国公報掲載と新規性喪失の例外
おろし器事件は、外国の意匠公報への掲載について、当時の意匠法4条2項による新規性喪失の例外を認めなかった判例です。創作者の行為と公開に因果関係があっても、制度趣旨から救済対象が限定されました。[1]
| 基本情報 | 内容 |
|---|---|
| 判決 | 東京高裁・平成12年11月28日 |
| 事件番号 | 平成12年(行ケ)第331号 |
| 掲載 | 判時1748号159頁 |
| 主な関連条文 | 意匠法3条1項・4条2項 |
| 結論 | 審決取消請求を棄却 |
1.弁理士試験のポイント
本件では、「誰の行為が原因か」と「その公開が救済対象か」を分ける必要があります。創作者の出願が原因でも、公報掲載は対象外とされました。
| 混同しやすい点 | 区別する内容 |
|---|---|
| 優先期間と例外期間 | 本件では、寄託からの期間と公報掲載からの期間が別々に問題となった |
| 当時の法と現行法 | 当時の例外期間は6か月、現在は1年 |
| 文言と制度趣旨 | 因果関係があるという文言上の説明だけで、適用範囲を決めなかった |
| 認定の誤りと結論への影響 | 同一・類似の認定に誤りがあっても、例外不適用の結論は変わらなかった |
2.事件の概要
原告は、おろし器の意匠について、工業的意匠の国際寄託に関するヘーグ協定に基づく国際寄託を行いました。その意匠が国際事務局の公報に掲載され、その後、日本で意匠登録出願をしました。[1・1~3頁]
| 出来事 | 日付 | 本件での意味 |
|---|---|---|
| 国際寄託 | 1993年4月7日 | 判決はここから6か月の優先期間を説明 |
| 外国公報への掲載 | 1993年6月30日 | 日本出願前に意匠が公表された |
| 日本での出願 | 1993年11月5日 | 寄託から6か月を過ぎ、公報掲載からは6か月以内 |
特許庁は、その公報の意匠を理由に登録を認めず、拒絶査定不服審判も不成立としました。原告は、新規性喪失の例外が適用されるとして、審決の取消しを求めました。
ここでの国際寄託は判決当時の事実です。現在の日本を指定する国際意匠登録出願の手続を説明したものではありません。
3.争点
中心となる争点は、外国公報への掲載による公開が、当時の4条2項にいう「意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因する」場合に含まれるかです。
原告は、公報掲載が自分の国際寄託行為の結果であることを重視しました。また、当時の特許法の「刊行物に発表」という表現より、意匠法の「行為に起因して」の方が広いため、公報への掲載も含むと主張しました。
特許庁長官側は、同項の救済は立法趣旨に必要な限度にとどめるべきであり、公報掲載まで含めると、優先期間を過ぎた出願に過重な保護を与えると反論しました。[1・2~3頁]
4.裁判所の判断
4-1.判断の基準
裁判所は、原告のような解釈が文言上考えられることを認めました。しかし、4条2項は、新規性を出願時基準で厳格に判断すると創作者に酷となる場合を救済する例外規定であり、適用範囲は立法趣旨に従って限定すべきだとしました。[1・3頁]
裁判所は、因果関係だけで決めず、公報への掲載を救済する必要性と優先権制度との関係から、適用対象に含まれるかを判断しました。
4-2.判断の理由
意匠の創作者は、創作したすべての意匠を直ちに出願するとは限りません。販売、展示、見本の頒布などで需要を確かめ、需要があるものを出願する場合があります。その市場確認の行為だけで新規性を失わせると、意匠の実情に合わず、創作者に酷となります。裁判所は、この事情を救済制度の理由として説明しました。
一方、出願の結果として公報に掲載された場合は、出願時に既に準備が完了しています。市場の反応を確かめるために出願前の公開が必要だった場合とは異なり、同項で救済する実質的な必要性がないとしました。
外国出願には、パリ条約の優先権制度による保護もあります。優先期間が過ぎた後、公報掲載から別の救済期間を認めると、公表による不利益を避けられる期間を実質的に延ばすことになります。裁判所は、権利者に過分の利益を与え、期間が過ぎたと信じて行動した第三者に不測の損害を与え得ると判断しました。[1・3~4頁]
4-3.本件への当てはめ
本件の日本出願は、国際寄託から6か月を過ぎていました。原告は、公報掲載からなら当時の例外期間である6か月以内に入ると主張しましたが、裁判所は、公報掲載自体が4条2項の対象外だと判断しました。
原告は、優先権と新規性喪失の例外には効果の違いがあるので、保護が過重になるとはいえないとも主張しました。裁判所は、公表による不利益を避ける期間を延ばす点で保護が重なりすぎるとして、この主張も採用しませんでした。[1・4頁]
意匠の同一性については、裁判所は日本出願の意匠と公報の意匠が「同一」だと認めました。特許庁が「類似」とした判断は誤りでしたが、審決は同一である場合も想定して例外の適用を検討していました。例外が使えなければ、同一意匠が出願前の刊行物に記載されていたため、登録を受けられない結論は変わりませんでした。[1・3頁]
4-4.判決の結論
裁判所は、内外国の特許公報、実用新案公報、意匠公報への掲載は、当時の4条2項の対象には含まれないとしました。
本件の意匠は例外によって救済されず、審決を取り消す理由はないとして、原告の請求を棄却しました。[1・4頁]
5.判例の射程と現行法との関係
本件は、創作者自身の行為に起因する公開をすべて対象外とした判決ではありません。問題となったのは、内外国の公報への掲載です。外国で販売や展示をした場合まで、本件の結論だけで一律に排除することはできません。
現在の意匠法4条2項は、発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報への掲載により新規性を失ったものを、対象から明示的に除外しています。また、同項の期間は現在1年であり、本件当時の6か月とは違います。[2]
期間が延びても、公報掲載が同項の対象になるわけではありません。公開の原因が対象に入るかを判断した後に、期間や必要な手続を確認します。
新規性喪失の例外によって、日本出願の日が外国出願の日に繰り上がるわけでもありません。優先権と例外規定は、同じ効果の制度として扱えません。[2]
6.確認問題
問い1 外国の意匠公報への掲載から1年以内なら、現行4条2項によって救済されますか。
されません。公報掲載による新規性喪失は、同項が明示的に除外しています。期間内であることだけでは足りません。
問い2 裁判所が二つの意匠を同一と認めた以上、原告の請求は認められましたか。
認められませんでした。新規性喪失の例外が使えなければ、同一意匠が出願前の公報に記載されていたことにより登録を受けられません。特許庁の類似性判断の誤りは、審決の結論を変えませんでした。[1]
出典
- [1] 東京高裁平成12年11月28日判決・裁判所掲載原文。事実と主張は1~3頁、裁判所の判断は3~4頁。原文冒頭の平成12年10月17日は口頭弁論終結日です。
- 判決日・事件番号は、特許庁「意匠制度120年の歩み」年表の平成12年11月の記載も参照しています。
- [2] 意匠法・e-Gov法令検索。
法令照合基準日:2026年10月4日。確認問題は独自に作成した学習用設問です。