レインステーション事件|通常実施権者の不争義務と訂正への承諾

公開日

レインステーション事件では、東京高裁が、通常実施権の設定契約を締結したことだけで、通常実施権者が当然に特許の有効性を争わない義務を負うわけではないとしました。本件契約から訂正審判への承諾義務も認めず、承諾を拒んだことを理由とする契約解除と、承諾を求める請求を退けました。[1]

なお、判決当時と異なり、現行法では訂正審判について通常実施権者の承諾は不要です。当時の契約解釈と、現在の手続要件を分けて読む必要があります。[2・3]

基本情報 内容
判決 東京高裁・平成16年10月27日
事件番号 平成16年(ネ)第2995号
掲載 裁判所ウェブサイト・知的財産裁判例
主な関連条文 判決当時の特許法127条、現行127条・78条、民法1条2項
結論 控訴棄却。追加した訂正審判への承諾請求も棄却

1.弁理士試験のポイント

通常実施権を得たことと、特許の有効性を争わない義務を負うことは同じではありません。裁判所は、特許の有効性を争わない合意などの特段の事情がない限り、設定契約の締結だけで当然に不争義務を負うものではないとしました。[1・5頁]

技術的範囲への属否と、特許の有効性も分けます。本件の和解では、製品が発明の技術的範囲に属することを認めたと推認できても、それだけで将来の有効性まで争わない合意があったとはいえませんでした。[1・4~5頁]

訂正審判への承諾については、適用される時点の条文を確認します。現行127条は専用実施権者又は質権者の承諾を定めていますが、通常実施権者は承諾を要する者に含まれていません。[2]

2.事件の概要

本件特許の発明の名称は「雨水等の貯留浸透タンク」でした。特許権者と専用実施権者が、通常実施権者に対して、登録された通常実施権の抹消を求めた事件です。[1・1頁]

当事者は、特許庁の判定の結果を受け、特許紛争を解決するための和解として、通常実施権の設定契約を締結していました。契約には、第三者の侵害の排除・予防に関する協力条項がありました。[1・4~6頁]

その後、第三者が無効審判を請求し、特許を無効とする審決がされました。特許権者は、無効理由を解消するために訂正審判を請求しましたが、通常実施権者は承諾しませんでした。当時は、通常実施権者の承諾が手続上必要とされていました。[1・1、5頁、3]

特許権者側は、承諾拒否が契約の協力条項に違反するとして契約を解除し、通常実施権の抹消登録手続を求めました。第一審で請求が棄却されたため控訴し、特許権者は控訴審で、訂正審判への承諾を求める予備的請求も追加しました。[1・1頁]

3.争点

第一の争点は、通常実施権者が訂正審判に承諾しなかったことが、本件契約の協力条項に違反するかです。違反がなければ、その拒否を理由とする解除によって抹消登録を求めることはできません。

第二の争点は、協力条項とは別に、当時の127条の趣旨や信義則を根拠として、通常実施権者に承諾義務を認められるかです。特許権者は、訂正によって通常実施権者に不利益はなく、特許を維持する利益があると主張しました。[1・2、5~7頁]

4.裁判所の判断

4-1.判断の基準

裁判所は、一般に、通常実施権者でも、特許の有効性を争わない合意などの特段の事情がなければ、実施許諾の基礎となった特許の有効性を争うことができるとしました。[1・5頁]

したがって、第三者が無効審判を請求し、特許権者が無効理由の解消を目的として訂正審判を請求した場合に、通常実施権者が承諾しないことも、それ自体で直ちに信義則違反になるわけではありません。

ただし、承諾拒否はどのような契約や事情の下でも常に自由だとしたわけではありません。裁判所は、本件契約の内容と、当事者の合理的な意思を検討しています。[1・5~6頁]

4-2.判断の理由

通常実施権者が必ず特許の有効性を争えないとすると、無効理由を含む特許についても、実施料を支払うなどの不利益を受け入れなければなりません。裁判所は、このような不合理を避けるため、設定契約を締結したことだけから不争義務を導くことはできないと考えました。[1・5頁]

訂正が特許権者に有利でも、通常実施権者にも必ず有利とは限りません。特許が無効になれば、通常実施権者は実施料を支払わずに技術を使用できる利益があります。特許を維持することを、両者に共通する利益と決め付けることはできません。[1・6頁]

また、無効審判の請求と侵害行為は別です。無効が確定すれば製品の販売はその特許権の侵害にならないため、無効審判を請求する行為を侵害行為と同視することはできないとしました。[1・4頁]

4-3.本件への当てはめ

本件契約は和解としての性質を持ち、通常実施権者が製品の技術的範囲への属否を争わない合意は推認できました。しかし、和解契約であるというだけで、特許の有効性も将来争わないという合意まで認めることはできませんでした。[1・4頁]

契約には侵害の排除・予防への協力条項がある一方、第三者の無効審判や、防御手段としての訂正審判の取扱いについて特段の規定がありませんでした。裁判所は、本件契約から訂正審判への承諾義務を認めず、この点の取扱いは当事者が特に定めなかったと解しました。[1・5~6頁]

特許権者は、通常実施権者の技術評価認定と販売実績も承諾義務の根拠として挙げました。しかし、認定は契約締結より前に受けており、実施許諾との因果関係は認められませんでした。

訂正に承諾が得られず特許権者側が大きな損害を受けるとしても、無効審判や訂正審判の取扱いを契約で定めなかった以上、その不利益だけから承諾義務を認めることはできませんでした。当時の127条の趣旨や信義則による主張も退けられました。[1・6~7頁]

4-4.判決の結論

東京高裁は、訂正審判への承諾拒否が本件協力条項に違反するとはいえず、承諾すべき義務もないと判断しました。

契約解除に基づく通常実施権の抹消登録手続請求を棄却した原判決を維持し、各控訴を棄却しました。控訴審で追加された承諾請求も棄却しました。[1・7頁]

5.判例の射程と現行法との関係

2022年4月1日施行の改正により、訂正審判などにおける通常実施権者の承諾要件は廃止されました。現行127条では、専用実施権者又は質権者があるときに、その承諾を得て訂正審判を請求することになっています。通常実施権者の承諾がないため、当時と同じように請求できないと説明してはいけません。[2・3]

一方、設定契約の締結だけから不争義務を導かず、技術的範囲への属否と有効性を分けて契約内容を読むという判断は、契約解釈の検討に役立ちます。現行78条が通常実施権を規定することと、契約でどのような義務を引き受けたかは、別に確認する事項です。[1・2]

本件は、明示的な不争条項が常に有効だと判断したものでも、常に無効だと判断したものでもありません。条項がある場合の効力や適用範囲は、別途検討が必要です。また、本件の結論から、すべての協力条項が訂正に関する義務を含まないと一般化することもできません。

6.確認問題

問い1 通常実施権の設定契約を締結した者は、契約の内容を問わず、当然に特許の有効性を争わない義務を負いますか。

いいえ。裁判所は、不争の合意などの特段の事情がない限り、契約の締結だけでは当然に不争義務を負わないとしました。製品が技術的範囲に属すると認めたこととも区別します。[1]

問い2 現行法でも、通常実施権者が訂正審判に承諾しなければ、特許権者は127条の承諾要件を満たせませんか。

いいえ。通常実施権者の承諾要件は2022年に廃止されています。現行127条で承諾を要する専用実施権者又は質権者と区別してください。[2・3]

出典

法令データ取得基準日:2026年10月4日。関係条文・改正資料照合日:2026年10月5日。確認問題は独自に作成した学習用設問です。