FM信号復調装置事件|外国特許権と準拠法
FM信号復調装置事件では、最高裁が、外国特許権に基づく差止め・廃棄請求と、侵害を理由とする損害賠償請求を分けて準拠法を判断しました。米国法が準拠法となるとした一方、差止め等には旧法例33条の公序、損害賠償には同11条2項を適用し、いずれの請求も認めませんでした。カードリーダー事件とも呼ばれます。[1]
| 基本情報 | 内容 |
|---|---|
| 判決 | 最高裁第一小法廷・平成14年9月26日 |
| 事件番号 | 平成12年(受)第580号 |
| 掲載 | 民集56巻7号1551頁 |
| 主な関連条文 | 当時の法例11条1項・2項、33条。現行通則法17条・22条・42条 |
| 結論 | 上告棄却。米国特許権に基づく国内行為の差止め等と損害賠償を否定 |
1.弁理士試験のポイント
属地主義を理由として、外国特許権に関する紛争では準拠法の決定が不要だと書かないことがポイントです。最高裁は、米国法により付与された権利に基づく私人間の請求には渉外的要素があり、準拠法を決定する必要があるとしました。[1・3、7頁]
差止め・廃棄請求は特許権の独占的排他的な効力に基づくため、法律関係の性質を「特許権の効力」と捉えます。他方、損害賠償請求は財産権侵害に対する民事上の救済として「不法行為」と捉えます。準拠法を選ぶ段階と、選ばれた外国法の適用を制限する段階も区別します。[1・4、7頁]
本件で適用されたのは当時の法例です。答案で判例を説明する際に、旧法例11条を現行法の条番号として書いたり、損害賠償の否定理由を差止めと同じ公序条項だけで説明したりしないようにします。[1・5、7~8頁]
2.事件の概要
特許権者は米国で特許権を持っていましたが、同一の発明について日本の特許権は持っていませんでした。相手方の日本法人は、日本でカードリーダーを製造して米国へ輸出し、その米国子会社が輸入・販売していました。製品一は当該発明の技術的範囲に属すると認定されていました。[1・1頁]
特許権者は、日本法人の製造・輸出等が米国での特許侵害を積極的に誘導する行為に当たり、米国特許法271条(b)項による責任を負うと主張しました。そして、日本での製造・輸出・販売誘導行為の差止め、国内にある製品の廃棄、損害賠償を求めました。[1・1~2頁]
東京高裁は請求を認めませんでした。特許権者が上告し、最高裁は結論を維持しましたが、準拠法についての原審の理由付けは一部を改めました。[1・3~8頁]
3.争点
第一に、米国特許権に基づく差止め・廃棄請求について、どの国の法を適用するかが問題となりました。さらに、米国法によって日本国内の行為の差止め等を命じることが、日本の公序に反しないかが争点でした。
第二に、損害賠償請求の準拠法を決める際、旧法例11条1項の原因事実発生地を、日本の製造・輸出の場所とするか、米国の権利侵害の結果が生じた場所とするかが問題となりました。米国法を選ぶ場合でも、日本法上の不法行為の要件を満たすかを別に検討しました。[1・4~8頁]
4.裁判所の判断
4-1.判断の基準
最高裁は、特許権の効力の準拠法について直接の規定がないため、条理により、特許権と最も密接な関係を持つ登録国の法によるとしました。差止め・廃棄請求の準拠法は米国法になります。[1・4頁]
損害賠償請求には旧法例11条1項を適用しました。本件では、直接侵害が行われ、権利侵害の結果が生じた米国を原因事実発生地としました。ただし、同条2項により日本法も累積的に適用します。[1・7頁]
4-2.判断の理由
特許権は各国の出願・登録によって成立し、その成立・移転・効力等は各国法で定められます。最高裁は、この登録国との関係から特許権の効力の準拠法を選びました。属地主義は、準拠法を選ばずに紛争を終わらせる理由ではありません。[1・3~4頁]
しかし、米国特許権に基づいて日本国内の行為の差止めや国内の物の廃棄を命じると、その権利の効力を日本に及ぼすのと実質的に同じ結果になります。最高裁は、日本が採る属地主義や、両国の特許権の効力を相互に認める条約がないことを踏まえ、旧法例33条の公序に反するとしました。[1・5頁]
損害賠償について米国法を選んだのは、侵害の結果が米国で生じ、日本法人も子会社による米国での輸入・販売を予定していたためです。この法選択は行為者の予測可能性を害さないと判断しました。[1・7頁]
4-3.本件への当てはめ
差止め・廃棄請求では、米国法の関係規定を適用した結果が日本の公序に反するため、最高裁はその規定を適用せず、請求を認めませんでした。[1・5頁]
損害賠償請求では、日本法を累積的に適用しました。多数意見は、日本法には、登録国の領域外で侵害を積極的に誘導する行為へ特許権の効力を及ぼす米国法のような規定がなく、立法や条約もないとして、本件行為は日本法上の不法行為の要件を満たさないとしました。旧法例11条2項によって米国法の関係規定を適用できず、損害賠償も否定しました。[1・7~8頁]
4-4.判決の結論
最高裁は上告を棄却しました。差止め・廃棄請求と損害賠償請求を認めないという原審の結論を維持しましたが、差止め等の準拠法を日本法とした原審の判断などは相当でないとしました。[1・4、8頁]
損害賠償については、井嶋一友裁判官の補足意見、町田顯裁判官の意見、藤井正雄裁判官の反対意見があります。町田意見は日本法を準拠法とすべきだとしました。藤井反対意見は米国法を準拠法とする点には同意しましたが、教唆・幇助による共同不法行為として日本法上も責任を認める余地があり、差し戻すべきだとしました。これらを多数意見の結論と混同してはいけません。[1・9~14頁]
5.判例の射程と現行法との関係
現在は、法例が全部改正された法の適用に関する通則法が適用されます。現行17条は、不法行為について原則として加害行為の結果発生地法を選び、通常予見できない結果には行為地法を選ぶ例外を設けています。20条のより密接な関係がある地の例外や、21条の当事者による変更もあるため、旧法例の判断をそのまま置き換えることはできません。[2・3]
現行22条は、外国法によるべき不法行為でも、対象事実が日本法上不法でなければ、その外国法に基づく損害賠償等を請求できないと定めます。42条は、外国法の適用が公序良俗に反する場合の一般的な制限です。法選択とこれらの制限を分ける考え方は、現行条文の検討にもつながります。[2]
本件は、日本で米国特許侵害を積極的に誘導したと主張される行為についての判断です。日本の特許権に基づく請求や、国内外にまたがる別の実施態様の結論を一律に決めたものではありません。また、現在の事件に旧法を適用するかは経過措置も確認します。[1・2]
6.確認問題
以下は本記事のために独自に作成した問題です。
問1.本件の差止め・廃棄請求は、属地主義により準拠法を決める必要がないとして退けられましたか。
解答.いいえ。最高裁は準拠法を米国法と決めた上で、その規定を適用して国内行為の差止め等を命じることが旧法例33条の公序に反すると判断しました。[1・3~5頁]
問2.本件の損害賠償請求では、米国法が準拠法となれば、それだけで責任が認められますか。
解答.認められません。旧法例11条2項により日本法も累積的に適用されます。多数意見は日本法上の不法行為の要件を満たさないとして、損害賠償を否定しました。[1・7~8頁]
出典
- 最高裁平成14年9月26日判決・裁判所原文。PDF3~5頁が差止め・廃棄、6~8頁が損害賠償と結論、9~14頁が各裁判官の意見です。裁判所の書誌情報で事件番号・判決日・掲載を確認しました。原文では発明の名称等が匿名化されています。
- e-Gov法令検索・法の適用に関する通則法。17条、20~22条、42条、附則3条4項を照合しました。
- 衆議院・平成18年法律第78号。法例を全部改正した制定法です。現行条文そのものとは区別しています。
原典・現行法の照合日は2026年10月6日です。現行法は同日にe-Govで表示された施行中の条文を確認しています。