ボールスプライン軸受事件|均等論の5要件

公開日

ボールスプライン軸受事件は、最高裁が均等論の5要件を示した判例です。本件では、対象製品と出願時の公知技術との関係を原審が検討していなかったため、破棄差戻しとなりました。[1]

基本情報 内容
判決 最高裁第三小法廷・平成10年2月24日
事件番号 平成6年(オ)第1083号
掲載 民集52巻1号113頁
主な関連条文 特許法70条・29条
結論 原判決破棄・差戻し

1.弁理士試験のポイント

均等論の5要件は、非本質的部分、置換可能性、置換容易性、公知技術との関係、特段の事情がないことです。5つすべてを満たす必要があります。

第3要件と第4要件は、どちらも技術的な容易さが関係しますが、比較対象と基準時が違います。

比較事項 第3要件 第4要件
何を検討するか 請求項の構成を対象製品等の構成に置換する容易さ 公知技術から対象製品等を推考する容易さ
いつの時点か 対象製品等の製造等の時点 特許出願時
容易だった場合 第3要件を満たす 第4要件を満たさない

本件の結論を説明する際は、「均等を認めた」とだけ書くと不正確です。一般的な5要件を示し、第4要件に関する審理が不足していたため差し戻した、と区別して説明します。

2.事件の概要

権利者が持っていたのは、「無限摺動用ボールスプライン軸受」の特許権です。特許発明の保持器は一体構造で、ボールの循環案内、シャフトを抜いた際のボール保持、シャフトの凸部を案内する凹部の形成という機能を担っていました。

相手方の製品は、プレート状部材、リターンキャップ、外筒の突堤を組み合わせて、それらの機能を実現していました。溝の形状などにも相違がありました。

権利者は、相手方製品が請求項の構成をすべて満たすか、又はこれと均等であるとして、損害賠償を求めました。原審は構成の相違を認めながら、技術的課題や作用効果が変わらず、置換可能性や置換容易性が認められるなどとして、侵害を認めました。[1・1~2頁]

3.争点

問題は、請求項の構成と異なる部分がある対象製品に、どのような条件で特許権の効力を及ぼせるかです。

権利者の主張に沿って、原審は機能や技術的思想の共通性を重視しました。これに対し、最高裁では、その判断だけで対象製品を均等と認めてよいか、公知技術との関係も検討すべきではないかが問題となりました。[1・2~3、6頁]

4.裁判所の判断

4-1.判断の基準

特許法70条1項は、特許発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載に基づいて定めます。まず請求項の構成を把握し、対象製品と比較するのが出発点です。[2]

最高裁は、構成に相違があっても、次の5要件をすべて満たせば均等として技術的範囲に属するとしました。表の短い要件名は、説明のために付けています。[1・3頁]

要件 条件
第1・非本質的部分 相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと
第2・置換可能性 置換後も発明の目的を達し、同一の作用効果を奏すること
第3・置換容易性 当業者が、対象製品等の製造等の時点で、その置換を容易に想到できたこと
第4・公知技術との関係 対象製品等が、出願時の公知技術と同一でも、それから出願時に容易に推考できたものでもないこと
第5・特段の事情 出願手続で請求項から意識的に除外したなどの特段の事情がないこと

4-2.判断の理由

出願時に将来のあらゆる侵害態様を予測して、請求項に書くことは困難です。一部を後に登場した部材などへ置き換えるだけで侵害を免れられるなら、発明の保護が不十分となり、発明への意欲も損なわれます。最高裁は、発明の実質的価値に対応する保護を認める必要があると考えました。

一方、出願時に既に公知だった技術や、それから容易に推考できた技術まで独占させることはできません。また、出願人がいったん請求項から除外したものについて、後から反対の主張をすることは禁反言の法理に反します。5要件は、文言を超えた保護の必要性と、その限界を定めています。[1・3~4頁]

4-3.本件への当てはめ

原審の認定では、相手方製品が採用した分割構造の保持器や外筒の突堤は、出願前の米国特許明細書に示されていました。無負荷ボールの円周方向循環や、複列タイプのアンギュラコンタクト構造についても、出願前の刊行物に記載がありました。

これらを組み合わせることが、特許発明の開示を待たずに当業者にとって容易だったなら、相手方製品は出願時の公知技術から容易に推考できたことになります。その場合、第4要件を満たさず、均等による保護は認められません。

しかし、原審は相違部分の置換可能性や置換容易性などを検討するだけで、対象製品と出願時の公知技術との関係を検討していませんでした。最高裁は、この審理不足を問題としました。[1・4~6頁]

4-4.判決の結論

最高裁は原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、東京高裁に差し戻しました。

本判決は、対象製品について侵害又は非侵害を確定したものではありません。「均等論の5要件を示したこと」と「本件の侵害の成否を確定したこと」は別です。[1・6~7頁]

5.判例の射程と現行法との関係

本判決から、同じ作用効果があり、置換が容易であれば、常に均等になるとはいえません。5要件すべての検討が必要です。また、ある部品が公知だったというだけで、第4要件が直ちに否定されるわけでもありません。判断対象は、公知技術と対象製品等との関係です。

現行特許法70条にも、均等の5要件がそのまま列挙されているわけではありません。条文を基礎に、判例の判断枠組みを併せて検討します。[2]

第5要件については、マキサカルシトール事件・最高裁平成29年3月24日判決が判断を補っています。出願時に他の構成を容易に想到できたのに請求項に書かなかったというだけでは、特段の事情にはなりません。一方、対象製品等の構成を請求項の構成に代替するものと認識しながら、あえて記載しなかった旨を客観的・外形的に示していた場合には、特段の事情が認められ得ます。[3]

この説明は、平成10年判決自体の判示ではなく、後続判例による補足です。

6.確認問題

問い1 置換後も同じ作用効果が得られ、製造時に置換も容易でした。これだけで均等侵害といえますか。

いえません。第1・第4・第5要件も必要です。本件では、対象製品と出願時の公知技術との関係が未検討でした。

問い2 出願時に代替構成を容易に想到できたのに、請求項に書かなかった場合、第5要件は必ず否定されますか。

必ず否定されるわけではありません。2017年の後続判例は、それだけでは特段の事情にならないとしています。意識的に除外したと評価できる、客観的・外形的な表示などを検討します。[3]

出典

法令照合基準日:2026年10月4日。確認問題は独自に作成した学習用設問です。